2020/02/25

2020年 2月 寺島佑樹(京都大学森里海連環学教育研究ユニット教務補佐員)

 私の実家は名古屋市の郊外にあり、多くの自然が残っている環境でした。家の近くには川や野池があり、そこで釣りを覚えました。小学生低学年の時は近くを流れる川でフナやコイのエサ釣り、小学生の高学年から高校生にかけてはブラックバスのルアー釣りに熱中しました。小学生から中学生にかけては、釣り仲間と学校での部活、通う学習塾が同じだったこともあり、一年中釣りへ出かける日々でした。大学生となり行動範囲が広がると対象魚は海の魚へと変わっていきました。

 学部時代に特に熱中し、現在においてもメインターゲットとなっているのがスズキです。スズキというと海の魚のイメージをもっている方が多いと思われますが、スズキの一部の個体群はその生活史において河川を利用します。私の主な釣り場である日本海側の河川の河口域では、遡上前の稚鮎(鮎の稚魚)をねらってハマチ、サワラ、スズキが回遊してくる光景が春に見られます。そして春から夏にかけて稚鮎の遡上にともないスズキもまた河川の淡水域まで遡上します。また秋には産卵期のアユを捕食するために多くのスズキが河川内に遡上してきます。鮎の友釣りをするような森林の中を流れる清流域の瀬で1mを越えるスズキを初めて釣ったときは非常に感動しました。

 スズキ釣りをとおして私はアユを介した河川生態系と沿岸生態系のつながりを実感してきました。しかし、それと同時に河川環境の人為的改変により天然アユの遡上が減少し、それにともないスズキの遡上が見られなくなった河川も見てきました。これら生態系の破壊・生態系間の分断を目の当たりにするにつれ、学部が経済学部であったこともあり、人間の経済活動にともない発生する生態系破壊のコストについて非常に関心を抱くようになりました。しかし、生物多様性を基盤とした生態系がもつ価値は現在の経済システムでは正当に評価されていません。このままでは森林・河川・沿岸といった複合生態系が連環した本来の生態系が維持されている豊かな釣り場がなくなってしまうのではないかという危機感が強くなっていきました。

 このような経験から生態系のもつ価値を経済システムや政策の意思決定に組み込む必要性を感じ、大学院進学後は生態系の持つ価値の経済的評価手法を研究テーマとしたいとぼんやり考えるようになりました。しかし、そのためには経済学の知識だけでなく生態学の知識が不可欠と考え、修士課程では陸ガニであるクロベンケイガニを研究対象としました。クロベンケイガニの成体は陸上に巣穴を形成し、産卵期になると幼生を河川内に放出します。放出された幼生は海まで下り沿岸域で成長します。成長した幼生は河川内に戻り、着底し、稚ガニとなり陸上に戻ります。このようにクロベンケイガニはその生活史の中で陸上、河川、沿岸を利用します。やはり修士課程の研究においても河川改修や沿岸土地開発により陸域と河川・沿岸域が分断され、本種が激減している現状に直面しました。

 私は博士課程でこれまで学んできた経済学と生態学を融合した生態系サービスをもとにした自然資本の実践的な経済的評価手法を研究しています。今後、生物多様性の保持と経済成長の両立を可能とするような評価手法を確立できればと思います。

アユを補食するために淡水域まで遡上したスズキ
木に登るクロベンケイガニ
釣り風景